森の日記

見たこと、知ったこと、感じたこと。

"エコ"ということばのまやかし。

この1年のあいだにフランスに来たことのある人は、きっと見たことがあると思う、電動キックボード。

 

いくつか会社があるようだけど、もっとも人気(普及)しているのは「ライム」というブランド。アプリをダウンロードして、そこからアカウント登録をし、課金をする。

アプリのアカウントで、街なかの至る所に乗り捨てられて(乗りおかれて?)いる電動キックボードをアンロックし、その課金額にあわせた距離を走行できる。

どこからでも、どこまででも移動可。アプリ上で乗り捨てられている電動キックボードの場所やバッテリー残量が表示されるので、自分の近くにあるキックボードをピックアップし、目的地についたらそこでそのままロックしてしまえばOKだ。

 

私も、友人がパリに遊びに来たときに彼女が乗ってみたいといったので、セーヌ川沿いで30分くらい、乗ってみたことがある。電動なだけあって、ぐわんと加速する感じ(自転車より速くもなる)、自転車以上に身軽な乗り心地が、単純に乗り物として、楽しかった。

 海外ではすでに普及しているそうだが、どうやら日本へもついに上陸するようだ。

forbesjapan.com

 

 

あと、「ライム」に関する説明が載っている記事も見つけた。やはり業界第一位で、2017年の設立直後からぐんぐん成長しているらしい。日本にも進出する予定だとか。

電動キックボードは、日本でもホットな話題のようですね(でもこのタイトルを見ると、アメリカでもいろいろトラブルあるのね、、、)

www.sbbit.jp

 

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ただ、ちょっとここ数日で気になる数字が出てきたので、まずそのニュース。

premium.lefigaro.fr

とにかくパリでは本当に普及しまくっているのだけど、けっこう、自動車の横をびゅん!と走り抜けていったり、歩行者の目の前を急にスピードを出して横切る人もいるので、私自身はけっこう「怖い、、、」と思っていた。(だから、友人とも、車の入ってこないセーヌ河岸の一部で少し試し乗りをした程度で、実生活では乗る勇気はない。)

6月20日に発表された調査結果によると(Institut de sondage YouGovが実施)、すでにフランス国民の29%が電動キックボードに乗ったことがあると回答した。

(サービス本格開始から1年で国民の30%が利用済みってけっこうすごい。)

しかしそのうち24%が事故にあったと報告していて、31%は転倒時に何の防御具も身につけていなかった。

(これも納得してしまう、、、みんな、ものすっごく身軽ないでたちでものすごいスピードだしているから。。)

さらに35%のフランス人が電動キックボードに乗っている/乗っていないにかかわらず、危険であると感じているという。

(これも別に意外ではない。むしろ少ないかも、、、)

 

フランスの場合で問題なのは、この乗り物が "法的空白" に甘んじているということだ。道路交通ルールも現状では関係ない。

 

すでに引用したForbesの記事によると、アメリカ・サンフランシスコでは18歳以上で運転免許が必要かつ時速制限が約24Km、シンガポールでは16歳以上で時速25kmまで、ドイツは14歳以上で時速20Kmだそうだ。

ちなみに日本の場合は「原動機付自転車」に分類されるため、原付免許が必要だそうだ。

 

こんなに自由だったのはフランスだけだったのか、、、とそこでも衝撃だったのだけれど。

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ところで、私がもっと少し気になったのが、こちらの記事。

premium.lefigaro.fr

この記事はフィガロの調査によるもので、「そもそも電動キックボードってエコロジックなの?」という疑問を呈している。

そう、電動キックボードは、自転車よりも便利で、エコフレンドリーで、機動力が高いところが売りなのだ。でもフィガロは、リサイクルやバッテリー(電動なので)、汚染といった観点で、本当に環境にやさしいのか、という点を検証している。いくつかの点が指摘されているので、順番に。

 

① 河川に放置された電動キックボード

好きなところに乗り捨てられるからこそかもしれないけれど、、、

今月2日には、パリのセーヌ川の、「レオポルド・セダール・サンゴール橋(チュイルリー公園やオルセー美術館のすぐ横)」から「ポン・ヌフ橋(映画で有名、シテ島の端っこ)」までのわずか1.6キロ間で、なんと58個の電動キックボードが川底から回収された。

5月には、南仏のマルセイユでボランティア団体が港の海底から11個の電動キックボードを回収、同じく5月にリヨンではソーヌ川から22個の電動キックボードを回収したとのこと。

電動キックボードが水中に放置されることに関する汚染度については、成分的にそこまでひどくないと言うことだけど(さらにもっと害のある塗料だとかタイヤとかの放置も問題だ、とも言及されているけど)、そもそも、「どこでも乗り降り自由」が売りの電動キックボードが川や海から見つかる時点で、それじゃあ本末転倒ではないかと感じてしまう。

 

②電動キックボードとそのバッテリーの作られ方

そもそも電動キックボードのエンジン(とバッテリー)は中国で製造されている。この時点で近くないから、輸送費がかかるよね、とフィガロは指摘。

さらにバッテリー部分に使われているリチウムイオン(電気自動車と同じ)が、とても需要の多い鉱物だ。

オーストラリアやチリ、アルゼンチン、中国が一大生産国。ただ問題は、リチウムイオンの採掘には超巨大な水槽が必要なため、その地域の生態系を完全に変えてしまうということだ。

もうひとつ、バッテリーに欠かせないコバルトも、これまた問題。

2016年の時点で、世界のコバルトの60%を産出しているのがアフリカのコンゴ民主共和国なのだけど、コンゴは本当に、鉱物採掘をめぐる国民の劣悪な生活環境や児童労働の問題がずっと指摘され続けている。コンゴは、スマートフォンなど電子機器に欠かせないレアメタルはもちろん、金や銅、スズなど、ものすごく豊富な天然資源があるのだけど、その一方での社会問題が本当に本当に本当に!深刻なのだ。

これに限ってはもはや、電動キックボードだけの話じゃないけど(そもそもスマートフォンやタブレット、電気自動車、、、あらゆる電子機器だって同じ)、せめて事実を知ることは、とても大事だ。

 

③そもそも電動キックボードのバッテリーの寿命問題

アメリカのある報告で、電動キックボードの寿命が28日しかない(!)という見積もりが出たと大きな話題となった、と次にフィガロは指摘する。ただ、これはいろいろと議論が分かれていて、フランスの業者は、(証拠は提出していないけれど)もっと寿命は長いと主張しているらしい。たいていの場合は修理を行うので、数か月から1年とのこと。少しずつ技術も向上しているらしい。

でも、、、これはそもそも論なのだけど、私には、自転車より電動キックボードのほうがエコフレンドリーな「わけがない」と思うので、なんとも言えない。だって、人力のほうが、電力よりずっとエコだよね?

 

④寿命を迎えた電動キックボードのリサイクル問題

使えなくなった電動キックボードは回収され、リサイクルされるのが原則で、業者はいくつかあるらしい。その一つでは月に20~40の電動キックボードを回収しているということ。リチウムイオンバッテリーを本体から外し、専門業者へ送る。残りの部分は細かく砕いてからさまざまな部品が回収される。

ただ、現状では "コストの事情で" リチウムイオンバッテリーの重量のうち50~60%しかリサイクルはされていないそうだ。

 

⑤バッテリーの充電に使われているエネルギー問題

バッテリーが減ってきたら充電する必要があるのだけど、その中で、ジェネレーター(発電機)を使って電動キックボードを充電しているようすが市民によってSNSなどに投稿され、物議を醸しているらしい。そもそもジェネレーターでは再生可能エネルギーではないし、本末転倒ではないかと。

まったくそのとおりだと思う。

ただ、これについても業者側は、こうした例はレアケースであると主張していて、再生可能エネルギーを使って充電することがもっと可能だと言う。

 

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正直ひとつひとつが至極もっとも過ぎて、うーん、、、と思った。

昨日の暑さ対策と同じなんだけど、テクノロジーはあくまでもテクノロジーで、「快適」や「便利さ」を追求する以上、そのために「エネルギーを消費」していることには変わりないのではないかと思う。

 

「エコ」「エコフレンドリー」という響きの良いことばを使いたくなりがちだけど、本当にエコなのはもちろん、パソコンもスマートフォンも持たず、自動車には乗らず、自転車と徒歩(もしくは頑張って公共交通機関)で行ける範囲で暮らすこと。

でも、それは現代ではとても難しい。そんな中で、自分はどこまで「快適」「便利さ」を求めるのか?本当に、それは必要なのか?という、こころの中でのひと呼吸が必要ではないかと思う。

少なくとも、電動キックボードは、遊園地のゴーカート的な面でのエンタテイメントではあるとしても、私は、ひとの暮らしの中に根付かせるべきほどのメリットをまったく感じない。

 

皆さんはどう思いますか。