森の日記

見たこと、知ったこと、感じたこと。

卒業後2

卒業して働いて2年ほどたって、わたしたちは別れた。

東京駅で、仕事を抜け出てきた恋人Sと、東北に戻る直前のわたし。東京の夜、高層ビルの横で。

円満、と書きかけたけど、このときは円満だったのか、ちょっとあんまり覚えていない。でもたぶん、わたしはいらいらしてたし、彼は仕事を抜け出てきていて、ぎこちなく、あわただしく、若干わたしの一方的な別れだったのかもしれない・・・いま思えば。

 

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東北に戻り、日常に戻った。

しかし、まさにその直後の一週間で、自分のキャパを超えた大きな刺激と試練に直面した。

  

全く恋愛感情を感じていない年配の人に(本心じゃないかもしれないけど)お酒の延長でそれまで受けたことのなかった直接的な誘いを受けたり、

帰り際の歩いている道ばたで、それまで全く色恋沙汰の対象ですらなかった男の先輩に突然キスをされそうになったり(拒絶したから未遂だったけど)、

うっすら好意を感じつつスルーしていた相手から、ついに直接的にデートの誘いを受けたり(とっさに”聞こえないふり”というずるい方法をとったけど)、

まったく恋愛と無関係だと思っていた同僚からラブレターをもらったり(これはさすがにびっくりしすぎてリアクションがとれなかった)、、、

 

断じて、わたしはもてるタイプではない。

なぜ、Sとの別れの直後の一週間で、こんなにたくさんの出来事がいっきにおこったのか。。。

人生って不思議だ。

 

いずれにせよ、3年以上つきあった彼と別れたこと(別れそうだったこと)さえ、誰にも言っていないにもかかわらず、別れた直後の一週間で連日そんなにも刺激にあふれた出来事に直面したわたしは、動揺した。

 

動揺して、Sを求めた。。。

 

ひとりでいるより、誰かといる方が良い。誰かの彼女、でいたほうがいい、そのほうが安心だ、と、思った。

これも、いま思えばなんて自分勝手な・・・と思うけれど。免疫がなかったのだ。そして、混乱したのだ。。

 

別れ話をしたちょうど一週間後の週末の夜。

わたしは何の予告もなしに東北から東京に戻り、東京に着いてから、Sに電話をした。そのとき、職場のひとと仕事終わりに飲みに出ていたSは、電話に出てくれ、さらに、その飲み会の後、わたしの予約したビジネスホテルまで会いに来てくれた。

 

「ごめんなさい。もう一度、つきあってください」。

そんな、自分勝手なことを言ったわたしに、Sは、泣きながら、笑顔で、喜んで、承諾してくれたのだった。本当に、涙を流すほど喜んでもらっても、いいのだろうか。もう一度つきあう、という結論でいいのだろうか。うっすらとそんな疑問が脳裏に漂っていながら、それでもわたしは、安堵していた。一度は心の底から好きだと思った彼が、再びわたしの思いに応えてくれて、再び”彼氏”が出来たことで、やって来た多くの人たちは明確に応えずとも、必然的に応えずとも、答えになるから。

 

Sに対しても、思いを行動に移してくれた人たちに対しても、いま思うと、まったく誠実ではない対応だ。。。

 

そんな自分は、罰が当たってしかるべきなのかもしれない。と、いま、書いていて、思う。

でも、そのときは、自己を保つのに必死だったのだ。仕事ですでに自己をぐらぐらと揺らがされていて、それでもしがみつくように取材や報道をかたちにし続けて、「頼れる支柱」となる、パートナーが、当時の自分には必要だったのだ。と、思う。

 

 

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結果として、一週間の別れを経てヨリを戻したわたしたち。その後は、穏やかに過ごせるようになった。

ヨリを戻したのは11月ころ。それから、再び週末をいっしょに過ごすようになって、その年のクリスマスイブは、わたしの暮らす町に彼が来てくれた。当日になって予約したフレンチのレストランは、こぢんまりしていて、当日予約にもかかわらず食事はおいしくて、久しぶりにけんかもなく笑顔で会話しながら食事が出来て、「ああ、彼と別れなくて良かった・・・」としみじみ幸せをかみしめた、そのクリスマスイブの夜。

 

わたしのアパートに帰ってきた後、おもむろに、突然、Sは、婚約指輪を取り出したのだ。「別れていたあいだに、君の暮らす町の近くで手作りしたんだ」と。 

 

わたしは動揺して、出された指輪に対してとっさに「受け取れない」ということばが脳裏に浮かんだ。

 

「受け取れない」っていうことは、プロポーズを受けかねる、ということだ。

 

さすがにそれを言葉に出来ず、「えっ・・・・・」と固まったわたし。

引っ込めなくなった、S。

 「うーーーーーん・・・・どうしよう、いまは何も言えない・・・けど・・・うれしい・・・けど・・・」というわたしに

「・・・持って帰るのもなんだから、受け取っておいてよ」というS。

 

けっきょく、婚約指輪を、こうして切れ味悪い感じで受け取った。

 

受け取って、切れ味悪いままに、かといって決裂もせずに、しかし幸せだったクリスマスイブのディナーの余韻はふっとんで、眠った。都合の悪いことは、眠って忘れてしまおう。といわんばかりに、寝た。

 

過去を思い返し、自分の煮えきらなさに、いらっとする。ただ、当時、キャパの限界だった。どう振る舞えば良いという見本もない人生の岐路を突きつけられ、途方に暮れたし、一方で目指す方向は明確過ぎて、迷えない自分にショックを受けたところもあるかもしれない。