森の日記

見たこと、知ったこと、感じたこと。

卒業後3

日々に忙殺され、且つ、日常に動揺していたら6月になっていた。。

 

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前回の続き。

後味の悪いまま、すっきりとせぬまま、指輪を受け取ったわたしは、それでも、Sが東京に戻った後、なんだかんだ興奮していたと思う。

初めてのプロポーズ。

誰かに、「一生一緒にいて欲しい」と求められたのだ。それはやっぱり、純粋に、嬉しい。試しに指輪をはめてみたりした。恋人同士のおそろいアクセサリー、といった文化に縁遠かったわたしにとって、くすりゆびにはめる正真正銘初めてのゆびわ。

だけど、その一週間後、Sは再び転職騒動を起こし、そして、あっさりと周囲の反対に流されて断念する。今回は、転職先からの内定までもらい、ほぼ「退職は時間の問題」というところまで話を進めたにも関わらず、周囲(家族)の反対にあった、たった一日で、転職を諦めたのだ。

 

わたしは彼の”寝返りの早さ”に、心底呆れた。

 

どれほどの覚悟で転職をしているのか。中途半端なら、転職先だった企業にも迷惑だ。

煮え切らないくせに、その自分の“煮えきらなさ”や”ふがいなさ”を周囲の環境のせいにしようとする、Sの甘い姿勢を受け止めるのは限界だった。年末にその騒動の一連を逐次報告されながら、わたしの心は静かに「あ、やっぱりこれ以上、無理だ」と思った。

 

誰にも言わなかったけど、自分の中の決意は年末についていた。

 

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2014年の春、たぶん5月ころ。わたしたちは別れた。

わたしが東京に出張に来ている折だった。わたしは、彼と約束さえしていなかったのに、その出張にあわせて、紙袋を持ってきていた。

自分のアパートに蓄えられていた、彼の私物たち。そして、指輪も。紙袋を持って出張に来て、ずっとホテルにおいてあったそれをわたしながら、東京駅でお茶をした。

この日は、ひさしぶりに、わたしがわたしらしく、彼の前でも冗談や、自分の興味の赴くままに話すことが出来た日だった。東京駅の駅ビルの上のほうの喫茶店で話していて。窓の外、むかいの古めの駅ビルの窓から布団が干されていて、「あのおうちのひと、どうして布団ほしているのかな」なんてしょうもない話を彼Sにした記憶がある。

 

わたしたちは笑顔で別れた。彼はもう、「チャンスをくれ」なんて言わなかったし、わたしも「きらい」なんて直接的なことは言わなかった。穏やかな時間を過ごして、なんだか、そのままデートに行けそうな、そんな空気で、別れた。

 

だから、彼は友だちに戻ったのだと思っていた。その後も誕生日には気が向いたらメッセージを送ったし、彼からも何かの折に連絡が来たりした。その程度の距離感でちょうどよかった。