留学前
青春時代の女同士の友情って、ちょっと恋愛に似ている気がする。
自分の好きな友だちがほかの子と仲良く話していて嫉妬したり、仲良しの証拠でおそろいのものを持とうとしたり、プリクラをとったり、一緒に帰ったり。
小学生のころからあんまり日本の女子グループになじめず、誰かとずっと一緒にいるより広く浅くの人間関係を保ち、心の中では一匹狼のつもりで生きてきたわたしにとって、Rは特別だった。
自分に似ている部分と、自分が欲しい(けど絶対に手に入れられない)部分、どちらも持っていたからだと思う。
似ているのは、世界へのまなざし。考えることが好きなところ。本や芸術、自然が好きなところ。ファッションなどの好み。根が真面目なところ。
憧れていたのは、外見の美しさ。傍若無人に振る舞えるところ。表現するのが得意なところ。
どこか常にまわりの視線を気にしてしまう自分に対し、人前でも堂々と発言したり踊ったり歌ったりが出来る彼女。
似ているけど全然違うけど、でもやっぱり似ている。そんな風に見えた。
だから、仲良しの4人組でいても、その存在は圧倒的に、他の2人とは違っていた。ある種、恋していたんだと思う。LGBTQとかそういうのじゃなくて。
一番の親友でいたい、という、独占欲のような。
Rがわたしのことをどう見ていたのかは分からない。
でもたぶん、お互いにちょっと、特別だったんだと思う。けんかしたし、けんかにならないまでも何度も衝突したし、それでも一緒にいた。
大学の成績レベルも近かったから、ライバルのような存在でもあった。
留学に挑戦するかどうかを考えていた大学2年生の夏休み。
わたしは、「本当に行きたいのか」を自分自身で見極めようと、1か月の海外ボランティアに出かけた。フランスの田舎で、世界各国から集まってきた若者たちと共同生活をしてボランティアする生活。
同じ頃、Rは、フランスの田舎に1か月のホームステイに行っていた。
他の友人たちも友人たちなりに、旅行やツアー、語学学校などでフランスに行っていたけれど、人とちょっと違う方法で、長めに滞在する、というところで、わたしたちふたりは共通していた。
そして、そういう、"人と違う自分"というところに、お互いちょっと、アイデンティティを見いだしていたところもあったと、思う。
秋には、翌年の派遣留学に向けた選抜が控えていた。
夏休みを終えて。
わたしも、そしてRも、ともに、派遣留学に挑戦することを決めた。
大学の派遣枠はそんなに広くなく、倍率も例年より高い中で、同じ大学を志望した私たち。
文学や芸術を学びたいと言っていた彼女の選択は、純粋なものだったと思う。
一方でわたしの選択は、本当はもう一段階難しい派遣先に志望するのに気が引けたという、ちょっとネガティブな理由。なぜかというと、難しい派遣先は、フランスでもエリート校として知られていて、これまでも派遣されている子たちは、たいてい帰国子女だったり、大学前からフランス語を学んでいたりと、基礎レベルの高い人たちだったから。学べる分野としてはその学校に惹かれていたけど、決して語学について優等生ではなかった私は、ひよって、文学や芸術を学べる普通の大学に志願したのだった。
ここでも、同志でありながらもライバルだった。
■◇■
試験を受けて、数週間後。
結果は、大学の掲示板に貼り出された。
わたしが見に行く以前に、「合格した!」とわたしの携帯にメールをくれたR。
自分はどうなんだろう。でも、Rが受かったって言うことは、落ちたのか・・・?
どきどきしながら、掲示板を見に行くと
わたしの番号は、自分が諦めていた、一段階難しいエリート校のところにあった。
拍子抜けした。
なぜ、教授たちがそういう判断をしたのかは、分からない。エリート校も倍率は3倍近かったし、加えてそちらは面接も他の学校とは違っていて、別枠だったから。
異例の結果だったと思う。
■◇■
でも。
結果として、少なからずのクラスメイトたちが派遣選抜から落ちた中で、Rとわたしは、一緒に、同じ時期に、フランスへ留学に行けることになった訳だ。
そして、行き先は同じパリ。
それはもう、テンションが上がってしまう。
留学に行ける、というだけでも嬉しいのに、自分にとって特別な友だちだったRも一緒。しかも、彼女も私も、結果として第一希望の派遣先。
やっぱり、私たちはちょっと違う。
こころのどこかで、そうやって、ふたりの友情を特別なものだと思いたい自分がいたのだと思う。