アジアでもいつか。
今日は、私がすきなテレビ局の話。
それは、Arte(アルテ)という、フランス東部アルザス・ロレーヌ地方のストラスブールに拠点を持つテレビ局だ。
「ドイツ・フランスの文化・ドキュメンタリーチャンネル」で、半分ドイツ、半分フランスの公共テレビがが出資している。
いくつか好きな理由があるのだけど、まず何よりドキュメンタリーの映像がきれい。たとえナレーションが分からなくても、映像を見ているだけでも美しい。
そして、いろんな国のいろんな話題を取り上げる。ドイツとフランスに限らず、ヨーロッパのほかの国、アジア、アメリカ、、、いろんな国のいろんな風土を見つめる。自然も。
ちなみに、このテレビ局はフランスとドイツがつくった公共チャンネルなのだけど、いくつかの点で特殊。
まず、二カ国で、というところ。1990年10月2日にフランス・ドイツ間で結ばれた条約によって作られたため、国家の規制下にない。
ちなみに財政面では、95%が受信料によってまかなわれている。(フランスとドイツで半分ずつ。)のこりは、独自の収入源(おそらく広告や番組の販売など)
1980年代、ヨーロッパが共同体として共通貨幣(現在のユーロ)を作ろうと動き出していたとき、フランス人ドイツ人ともに、互いの文化を理解し合い、ヨーロッパ統合に向けて近づくための共同チャンネルを作ろうとしたことから生まれた。
フランス語、ドイツ語のみならず、英語、スペイン語、ポーランド語、イタリア語も放送を見ることができるので、ヨーロッパ市民の70%が直接Arteの番組を視聴することができる。
ちなみに、ストラスブールのあるアルザス・ロレーヌ地方というのは、フランスとドイツの国境すぐそばにある。鉄鉱石と石炭が採れる豊かな地域でもあるため、歴史的にずーっと、フランスとドイツはこの地域を取り合ってきた。
普仏戦争でプロイセン(ドイツ帝国)が勝ち統治、
第一世界大戦でドイツが敗北してフランスが領有、
第二次世界大戦でナチスがフランスを破り自国に編入、
しかしその後フランスが最終的に連合国軍として勝ち再び領有。
以降、いま現在の国境。
以前、パリでこの地方出身のおじさんと話したことがあって、おじさんの両親や祖父母の代の話をしてくれた。
統治国が変わるたびに、何度も公用語がドイツ語とフランス語のあいだで行ったり来たりしたのだそうだ。たとえば「明日から"今日まで話していた言葉”を話してはいけない」などという理不尽なことも。
だからこの地域の多くの高齢者はフランス語もドイツ語も理解する。
そんな風に歴史に翻弄されてきた地域に、そんな歴史的に対立してきた2国が、共同で「文化チャンネル」を作った、ということが、どれほどすごいことか、分かると思う。
ものすごく端的に言えば、竹島に日韓の文化チャンネルのTV局を作ったり、尖閣諸島に日中の文化チャンネルのTV局を作ったようなものなのだ。
(もちろん、こっちの場合は島だし、居住者はいないし、いろいろと違うけれど!)
文化って、その違いによって対立やいがみ合いの種になり得るけれど、やっぱり互いを理解し合うためにとても重要だ。
Arteの番組は、かといってフランスとドイツのものに限らず、ほかのヨーロッパの国についてはもちろん、アメリカだとかアジアだとか中東だとかさまざまな地域の話、自然に関する話題も多く取り上げている。そんなところも好き。
(いちおう、放送される番組の85%がヨーロッパで共同製作されたもの。)
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ちなみに、
フランス人とおしゃべりしていると、みんなテレビ局についてはかなり辛口で、「くだらない」「しょうもない」「見ない」とさんざんな言われようなのだけど、
Arteについてだけはほとんどのひとが「良い局」「すばらしい」と言う。それも面白かった。
こらへんは、フランス人がドキュメンタリーとか映画とか、映像作品が好き、という性質的なものもあるのかもしれないけど。(wikipediaのArteの説明を見たら、フランスとドイツで視聴率が二倍くらい違ったので!)
まあとにかく、ドキュメンタリーを作る端くれとして、こんな風な豊かな映像で、ゆったりとした編集で、かつ自国に限らずさまざまなテーマを扱うアルテの制作現場には、やっぱりあこがれがあるわけです。
日本で番組を作るときって、たいていは「日本人」が中心だ。
でも、世界には70億人もの人が生きていて、そのうち日本人なんて1億2千人に過ぎないわけで、日本人ばっかり見つめていても、「わたしたちがいま生きる世界」が分かるわけないじゃないか、と思う。
それに、移民や外国ルーツの人たちがどんどん増えている現代において、いまだに良く分からないふんわりした定義の"日本人"にこだわるのも、ナンセンス、だと正直感じる。
いつか、アジアでもArteのような共同チャンネルを作って、韓国や北朝鮮、中国、台湾、香港やいろんな国の人たちといっしょにドキュメンタリーや放送を作れるようになりたいなあ。